第二十三篇 フェナルトシティに響く音
著者:shauna
シュピアの言葉に慌ててシルフィリアが見た目線の先・・・
そこには・・・
先程、ロビンにやられたはずのリオンが立っていた。
ロビンが気絶させた時の傷が浅かったのか・・・あるいは、彼女自身の回復能力が高いのか・・・
もちろん、負傷で完全にボロボロなのだが、それでも彼女は必死に立ち上がり、這うようにして歩いて“水の証”がセットさせた台まで行き・・・そして・・・
「せめて・・・これだけでも・・・私達が・・・」
水の証に手を伸ばす・・・。
その直後だった。
「触るな!!!!!」
信じられない程キツイ言葉がシルフィリアの口から発せられる。
「え?」
リオンはそう言ってシルフィリアの方を振り返るも・・・
その指先はすでに“水の証”の表面に触れ・・・
その瞬間・・・
「きゃあああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
リオンの叫び声と共に、強大な光が水の証から放たれた。
さらにその直後・・・大きな衝撃波が一度置き、リオンがそれに弾き飛ばされて、後ろの壁に激突する。
そして・・・
パリーンともシャランとも取れるものすごく美しい音を立てながら・・・
サーラが思わず口を開く。
「水の証が・・・」
砕け散った。
「フ・・・フハハハハハ!!!!」
その光景を見て高笑いするシュピア。
「シュピア!!あなた一体何を!!!」
シルフィリアが激しく問いただす。
「知れたこと・・・。私の目的は、お前を手中に収め、ひいては聖蒼貴族をも手中に収めること!!そして失敗した場合は、シルフィリア!!君を殺すことだよ!!!その後ろのおまけ共と一緒にね・・・アハハハッ・・・」
必然的にシルフィリアの顔が厳しくなる。
「・・・いや。“だった”と言うべきか・・・。サーラ・クリスメント・・・彼女にも死んで貰わなければならない。人を誘導する才能を持った魔女にはね・・・。」
「魔女・・・」
意外そうな顔をするシルフィリアにシュピアは再び笑みを強める。
「やはり気が付いては居なかったか・・・。まあいい。どの道君達全員には死んでもらうよ。」
「・・・どういうことです?」
「私だって、インフィニットオルガンを使おうと思った以上、研究と調査は欠かさなかったさ・・・。もちろん、“水の証”についてもね・・・。そして、私が君にエクスカリバーで一撃を与え、君がその傷を癒しているまさにその時・・・インフィニットオルガンにある細工をさせてもらったよ。その細工とは・・・」
その瞬間・・・。
バチバチと赤い閃光が走り、インフィニットオルガンが暴走を始める。
聞いた事もないような音を奏でながら狂ったように同じ旋律を奏で続ける。
誰の目にも明らかな暴走。
「シュピア!!あなた一体!!!」
シルフィリアの代わりに今度はサーラが怒鳴った。
「その答えはシルフィリア・・・君が一番よく知ってるんじゃないかな・・・。」
シュピアの言葉に全ての視線がシルフィリアに集中する。
「シルフィリア!!お前、一体・・・。」
オルガンを作る時にどんな細工をした!!!とファルカスが言いきる前にシルフィリアは自らの口を開く。
「・・・インフィニットオルガンには、ある呪いが掛けてあるのです・・・。」
「呪い・・・ですか?」
ロビンが弱々しい声で聞く。
「というよりも、呪いは水の証に掛けられています。あれは、私が作ったものでは無く、神がこの町に齎したとされる伝説の魔法石・・・。そして、この水の証が収められていた台にはこう書かれていました。“悪しき者、水の証を使う時、水は引き、護りの証は消える・・・この街もろとも・・・”」
「その通りだよ!!!素晴らしいじゃないか!!!アハハハハハッ!!!」
驚く面々の中でシルフィリアの顔はより険しくなり、シュピアの顔は壊れた様に綻ぶ。
「君が治療中に私が水の証にかけた魔法。それは、私以外の全てを"悪しき者"と判断するというプログラム!!!かなり難しい術式だったけど・・・いやはや、君がバカで助かったよ!!その後ろの狐如きに気を取られたおかげで、術式を完成させる時間が出来た!!君の治癒時間という時間がね!!!アハハハハハ!!!」
「シュピア・・・あなたはどこまで!!!」
静かに怒りを露わにするシルフィリア。それに対し、シュピアは平然と鼻を鳴らす。
「そう怒るな・・・作戦は一応失敗したんだ・・・。本当は水の証には君かあの魔法医の小娘が触れる予定だったのだ。そして、どちらかが吹き飛ばされる。よければ君達の下らない仲間意識とかいうので、同時に触れて2人ともね。・・・まあ、リオンが触れてしまったのは、確かに意外だったが・・・それでも、君達の運命は変わらないさ・・・」
その時を同じくして・・・
街の中で避難活動を行っていたサージルは有り得ないモノを目撃していた。
「なんだ・・・これは・・・」
それは・・・
「運河の水が、逆流していく・・・」
それが何を意味しているのかサージルには分かっていた・・・これはつまり・・・
「急げ!!!かなりヤバいのが来るぞ!!!」
最後の住民を避難させるため、サージルは力いっぱい叫んだ。
バチバチと赤い稲妻を放ちながら暴走するインフィニットオルガンを眺めながら、シュピアがニヤ付く。
「まもなく、この街は消える!!今からじゃ、逃げることはできないぞ!!!素直にくたばれ!!シルフィリア!!!」
「・・・このクズが!!!」
悪態をつきながらシルフィリアは身を翻して、外に出る。
今は一刻も早く外に出なければ・・・。
「オボロ・・・動けますか・・・」
その言葉に寝ていたオボロが身を起こし、静かにシルフィリアに寄り添う。
「シルフィリアさん!!私達も行っていい!!?」
そう言いだしたのはハクを両手で抱えたサーラだった。続いて、ファルカスとロビンも同じことを言う。
できれば、避難させるべき対象だが、もはや無関係とは言えなくなってしまった彼女達の申し出、断るわけにはいくまい・・・
「もちろん。」
そんな気持ちを察したのか、シルフィリアの代わりにアリエスがそう宣言する。
そして、全員で外に出て、そこで見た物・・・それは・・・
信じられない光景だった。
「そんな・・・」
ファルカスが呟く。
「海が・・・」
ロビンが呟く。
「・・・消えた・・・。」
最後にサーラがその光景を締めくくった。
それはまさに今三人が言った通りの光景だった。
フェナルトシティは別名“水の都”と言われる程に、水に溢れた美しい街のはず・・・
なのに・・・
今のこの町のいたるところに張り巡らされた運河の水どころか、地平線の先まで水が無い・・・普段は見られない運河の底の土やら、海底の隆起した様子までもがはっきりと見て取れる程、全くと言っていいほど、水が存在しないのだ。
「・・・まさか・・・」
その様子にシルフィリアもこの後に引き起こるある現象に目星を付ける。
そして、同時にオボロが飛びあがった。黒い狐はその長い体を真っ直ぐに伸ばして一気に跳躍し、聖堂の一番高い塔の鉄片にまるで蛇がトグロを巻くようにして出で立ち、目を細めて地平線の彼方を凝視する。
その瞬間のことだった。
全員の耳に地響きのような音が響き渡る。
それと共に、聞こえる波の音・・・間違いない・・・
そう思った瞬間、シルフィリアは聖堂目掛けて走る。
「シルフィリアさん!!!どこ行くの!!!」
サーラの言葉などには目もくれず、ただひたすらに・・・。
そして、聖堂の中に戻った瞬間・・・
青白い光でそこは満たされていた。
良く見れば輝いているのは魔法陣。そして、その中央に寝ているのはシュピアで・・・
「シルフィリア・・・ごきげんよう・・・。」
そう言ったかと思うとシュピアの姿が消え、魔法陣も消滅する。
<ヤラれた!!!>
そんな思いだけがシルフィリアの頭を過った。
あれは、『転移(ポータル)』という魔法。準備としてあらかじめ難しい術式を魔法陣に込めて2ヶ所に書いておくことで、その2ヶ所を一方通行で一度だけ移動できる魔法。
私達だけを置いて、自分は逃げる。しかも・・・
シルフィリアが壁際に目をやるとそこには倒れたままのクロノとリオンが居た。
仲間を置いて・・・
大した作戦だ!!!あのゴミオヤジ!!!!
だが、まだ手段が無くなったわけでは無い。まだ手段はある・・・
そう考えてシルフィリアはあるモノを探す。
この聖堂内のどこかに使い捨てられている筈のあるモノを・・・
一方で、外で状況を見守っていたサーラ達もようやくアレの正体を知ることとなる。
水の枯れ果てた海・・・その今は地平線となっている向こう側・・・。
そこにあるモノが見えた。
一直線に・・・まるで一本の白糸を這わせたように広がる何か・・・
そして、それは段々と近づいてくるたびにその正体を露わにしていく。
それは・・・
一気に引いた水が一気に戻る現象。
つまり・・・
特大の高波だった。
「ウソ・・・だろ」
思わずファルカスが漏らす。
「町が・・・沈む・・・」
呆然とした様子でロビンが言う。
もうどうする事も出来ない・・・。3人がそう思った瞬間・・・
その目の前にオボロが降り立った。
その頃、シルフィリアもやっと探していたモノを見つけた。
それはシュピアが捨てたもの・・・それは自分が数年前に作ったスペリオルだった。
ショルダーキーボード型の魔法杖“アルトルネ”・・・。
その基本は一つ一つの鍵盤に魔道言語を仕込んで、曲を奏でることで魔術を実行する・・・つまり、インフィニットオルガンと変わらない。
ならばとシルフィリアは袖から工具を取り出す。
必要なのは魔道銀(ミスリル)のピアノ線と既存の振動板。武器として持ってきたこの2つがまさかこんな形で役に立つとは思わなかった。
まず、ピアノ線でインフィニットオルガンとアルトリネを外部接続し、中央につけた振動板で信号を伝達すれば・・・。
やはり予想通りだった。
インフィニットオルガンはなんとか暴走を止め、コントロールを取り戻す。
「よし・・・これで・・・」
津波は収まる・・・と考えたのだが、すぐにそんなはずが無いと考えを改める。
津波とは言ってしまえばボウリングのボール。レーンに一度放ってしまえば、例え投げた人間の手を抑えようと止まることはない。
「なら・・・」
そう小さく呟き、シルフィリアはインフィニットオルガンの演奏台に着く。
「私の魔力も残り少ないですが・・・」
その全てを注ぎ込み、シルフィリアはゆっくりとその鍵盤に手を掛けた。そして・・・
―♪〜♪♪〜♪♪〜♪〜♪〜 ♪〜♪♪〜♪♪〜♪〜〜♪〜〜―
鎮静呪文の演奏を始める。
流れるようなピアノの音が紡がれ、綴られ、旋律が繋がり、それは一つの魔法へと昇華していく。
まるで、街全体を現すかのような優しく、力強く・・・
その音を響かせる。
「これで・・・なんとか・・・」
必死になって演奏するシルフィリア・・・出来ればこれで静まってほしいと・・何とかなってほしいと・・・そう願いつつ・・・。
しかし、時はすでに遅かった。
確かにインフィニットオルガンの音色で、波は沈静化してはいるものの、演奏を開始するのが遅すぎたのだ。
波は未だ、街を飲み込む程の力を以ってこちらに迫ってくる。
そんな中の出来事だった。
サーラ達の前にオボロが降り立ったのは・・・。
「オボロ・・・」
不安そうに呟くファルカスを前にオボロは今一度シルフィリアの姿を取る。
「大丈夫・・・あなた達は守るから・・・。」
その声は本人とは違うモノのものすごく澄んだ・・・暖かな声だった。
「あなた達だけじゃない・・・この街は全部・・・私が護るから・・・。」
「・・・あなた何言って・・・。」
そこまで行ってサーラはハッとする。
「あなた!!まさか!!!」
「何だ!!!?」「何ですか!!!?」
ファルカスとロビンが驚く中、サーラが慌てて言う。
「無理だよ!!!あの波を一人で止めるなんて!!!」
「でも・・・私が行かなきゃ・・・」
「でもじゃない!!!」
サーラの否定にオボロがキョトンとした表情を浮かべる。
「あなた・・・さっきまであんな状態だったんだよ!!捕まって、鍵にされて、魔力を吸われて!!!こんな状況であんなのを止めに行ったら間違いなく死ぬ!!!魔法医として死にに行く人をそのまま『行ってらっしゃい』なんて送り出せない!!!」
「サーラちゃん・・・。」
オボロが静かに目を閉じ、サーラの意見を踏まえて今後のことを考えているような態度を取る。
(ファルカスくん・・・)
ファルカスの脳内でオボロの声が響いたのは唐突のことで、流石のファルカスのサーラの念話で多少慣れているとはいえ、少しビクッと驚く。
(あなたにお願いがあるの・・・。)
サーラが通心波(テレパシー)を使っていないことを確認してから、ファルカスはいつもサーラにしているようにオボロに対して、静かに念じた。
(何だ?)
(私が、『ありがとう』と言ったら、サーラちゃんを後ろから捕まえて動けない様にして欲しいの・・・。)
(・・・・・・よく考えた上での結論か?)
(・・・・・・・・・うん。)
(了解した。)
ややあって、オボロは諦めたように溜息をつき、サーラに向かって言う。
「わかった。死ぬのは止めるよ。何か他の選択肢を探そう・・・。大丈夫、きっと何とかする方法があるはずだと思うから・・・」
その言葉に安心したのかサーラは満面の笑みを見せ、
「うん!!!そうだよ!!!きっと何か方法があるよ!!!」
「そうだよね・・・サーラちゃん。死ぬなんて言ってごめんね。」
「いいよ別に・・・気にしなくって・・・」
「うん・・・サーラちゃん・・・『ありがとう』・・・」
オボロがそう言った瞬間、ファルカスが後ろからサーラの脇に素早く手を入れ、動きを封じる。
「ファ!!!ファル!!!」
驚いていたのも束の間・・・先程まで笑って会話していたオボロが真顔で自分に背を向けた瞬間に通心波(テレパシー)を使ったサーラは全てを理解する。
「そ・・・そんな・・・酷いよ!!!騙すなんて!!!ファル!!!放して!!!」
そう抗議して暴れるサーラに何度罵声を浴びせられても何度足をけられても、ファルカスはまるで銅像のように一切動かず、状況を傍観する。
「ファル!!いい加減にしなさい!!!ファル!!!」
「サーラちゃん・・・。」
暴れ、泣くサーラを僅かに振り返り、オボロは言う・・・。
「私はね・・・全ての人間は、何か成し遂げるべきことがあって、生きてるんだと思う・・・あなたも・・・そしてファルカス君もロビン君も・・・。それに、私も・・・。そして、私の成し遂げるべきこと・・・それはこの街を守ること・・・。ほら・・・私、護り神だから・・・。」
「でも・・・」
「だから・・・そんな顔しないで・・・私、とっても嬉しいんだよ。シルフィリア様に助けてもらってから・・・もう何年になるかな・・・。この街を護るって役目を貰って・・・でも、いっつもいっつも、やろうと思ったことが裏目に出て・・・ほら、ファルカス君、あなたがゴンドラレースに出た時、凄い力でゴンドラ引っ張られなかった?」
ファルカスは宙を仰ぎ思い出す・・・そういえば・・・
「あれ、お前の仕業か・・・」
「うん・・・シルフィリア様に言われて助けてあげようと思ったんだけど・・・途中でコース間違えちゃった。私ってそういうところ鈍くってさ・・・いっつもいろんな人に迷惑かけっぱなしだったの。今回もそう・・・たまたまお昼寝してたら訳の分んない人たちが来て、寝ぼけたままじゃ戦えなくって、“水の証”も奪われて、私も捕まっちゃって・・・また、シルフィリア様に迷惑かけちゃって・・・だから、最後ぐらい自分でケリを付けたいの。自分が引いた引き金から出た弾は、私自身の手で回収したいの・・・。」
「イヤ・・・そんなの嫌だよ!!!」
もちろん、現状ではそれが唯一無二の打開策だとは分かっていても、サーラにはどうしてもそれを認めることが出来なかった。
「これ以上、私の前から大切な人が消えるのはイヤ!!!お父さんとお母さんみたいにいきなり居なくなるのはヤダ!!!・・・あんな悲しみ・・・二度と味わいたくない!!」
「ありがと、サーラちゃん・・・。そして、言えた義理じゃないけど・・・幸せにね。」
そう言い終ると同時にオボロは再び狐の姿になる。
そして・・・
迫りくる並に向かって視線を一気に強めると・・・
「オオォオォオォオオォォオオオオオォォォン・・・・!!!!」
高らかに鳴き声を上げて、まるで竜巻のような風を巻き起こし、一気に地面を蹴り、波に向かって一直線に飛んで行く。
「オボロ!!!!」
サーラがその名を呼んだ・・・。
その声に反応するかのように、飛んでいたオボロの体が輝き始める。
綺麗な水色の光・・・
身体から放たれた光はやがて全身を包み込み、そして、水色の光球へと昇華し・・・。
そのまま、光の弾丸となったオボロは巨大な津波の中央に吸い込まれるように突入し、光は消えかけるが・・・。
見えなくなる直前・・・
波の中央に巨大な光となった。
光りはそのまま巨大化し続け・・・
そして・・・
――ドォオォオォオン!!!――
という爆音と共に、その光に押されるようにして、津波がその光に押されるようにその形を崩していく。
崩れた津波は穏やかな波となり、緩やかな速度で枯れた海を癒していった。
その海の上には未だに輝き続ける光球・・・
そして、その時、聖堂の中でピアノを弾き続けるシルフィリアの目の前・・・
丁度、インフィニットオルガンの中央の紋章の辺りにそれは姿を現した。
全身を水のように透明な青で包まれた・・・色鉛筆だけで描いたような、自分の姿・・・
「オボロ・・・」
シルフィリアがその名を呼ぶ。
すると透明なオボロは緩やかにシルフィリアの目の前まで降りて来て・・・
静かにその手を差し出す。
シルフィリアがおそるおそる手を触れると・・・
“もう行かなきゃ・・・”
そんな声がシルフィリアの脳内に聞こえた気がした。
寂しそうな顔をするシルフィリアにオボロは静かに頷く。
「何か私に伝言はありますか?」
その言葉に再びシルフィリアの脳内に言葉が響く。
「・・・承知しました。」
“シルフィリア様・・・ありがとう・・・”
声が脳内に響き渡ると同時に、シルフィリアの手からオボロが静かに手を離し、ゆっくりと水色の光の玉になり、やがて空気に蕩けるようにして姿を消す。
時を同じくして、外の海の上で輝いていた光の球も、柔らかく海に落ち、やがて細い細い一本の光の柱となって天へと昇って行った。
その光もやがて静かに消え・・・
水は緩やかに乾ききった運河を満たしていく・・・。
空を飛んでいたデーモン達の残党もやがて、光の結晶となり、消え・・・
そして・・・
地平線の向こうからダイヤモンドよりも美しい太陽が静かにその顔を出した。
そんな光景を、ファルカス達は何も言わずに黙って見つめていた・・・。
ともかく・・・これで全てが終わった。
徐々に上がって行く太陽はそんなことを黙って告げている気がした。
「・・・シルちゃん呼んでくるね。」
暫くしてから、サーラがそう言って、大聖堂の中に入って行く。
多分、彼女はオボロがどうなったのかを知らない。それを伝えなきゃ・・・
でも・・・一体どんな顔をして会えばいいのだろう・・・。
「オボロのことだけど・・・」
ううん・・・これじゃダメ・・・暗過ぎ・・・
「アハハ!!!オボロ居なくなっちゃったね!!!」
私はバカか・・・そんな人間何処にいる・・・。
「オボロは居なくなっちゃったけど・・・私はいるよ(はぁと)」
・・・・・・・・・死のう・・・
でもそんなことを考えている間にも足は自然と進んで行き、ついにインフィニットオルガンの前に立つシルフィリアの姿を見つけてしまった。
「やっぱ・・・最初のが一番無難かな・・・。」
どうやら、彼女はまるで祈るように胸の前で手を合わせてそこに立っている様だった。
サーラはその後ろまでゆっくり近づき・・・
「あの・・・シルフィリアさん・・・」
自分でも驚くほど小さな声で呟くように話しかける・・・。
魔法医故に人の死には慣れているつもりだったし、それを遺族に宣告した事も何度かある・・・。でも、まさか、その対象が友達になった時、こんなにつらいモノだとは予想してなかった。
だけど・・・伝えなくてはならない・・・
握りこぶしを胸の前で造り、グッと覚悟を決めて、サーラはシルフィリアに言う。
「シルフィリアさん・・・オボロのことだけど・・・」
シルフィリアが静かに振り返る。
「大丈夫です・・・全部・・・わかってますから・・・」
その声は驚くほど落ち着いていた。
そして・・・
「あ・・・」
サーラはあるモノに気が付く・・・。
シルフィリアが祈るようにしていたのは、何も死んだオボロに祈りをささげていたわけでは無かった。
あるモノを両手で静かに握っていたのだ。
それは・・・
「“水の証”です・・・」
シルフィリアがその名前を言うと同時にシルフィリアが微笑む。
「オボロが置いていってくれました。」
「・・・そっか・・・」
そして、2人は同時に空を見上げる・・・。
「“空から見ていてくれる”とか・・・“オボロは心の中で生きている”とか、そういうこと言うつもりはありませんが、きっと・・・彼女は彼女なりに満足していると思います・・・。」
「そうだね・・・」
その後、“水の証”は元あった皇族の箱庭(ロイヤル・ガーデン)の神殿にある台座へと戻された。
「キレイ・・・」
サーラが静かに言う。
「それにこの光り・・・なんだか、温かいです・・・。」
続いてロビンもそう口にした。
「世界で一番綺麗な輝きだからね・・・。」
「オボロはきっと・・・“水の証”となり、この街を守り続けてくれると思います。いつまでも・・・いつまでも・・・」
爽やかな風が頬を撫で、耳を澄ませばこの街を象徴する水の流れる音色が聞こえてくる。
そして、広く高く晴れ渡った空には白い鳥が羽ばたき、聖堂の鐘が鳴り響いていた。
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